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一人暮らしだからかもしれないが、他所の家の喧騒が心地良いものに感じられるし、運がよければ綺麗な月と雲の風景を眺めることが出来る。
決して、そこに風情があるわけではない。
電信柱がそこかしらに伸びて、電線が多くの家庭に必要な電気を供給しているのだからむしろ見慣れた街の顔であろう。
それでも、秋から冬にかけての夜道の中でこの路地は好きだった。
張り詰めていく空気によって、まるで自分自身が研ぎ澄まされていく刃のように思えた。
鋭利でありながらも、その姿は美しくも淘汰された存在に自分がなってしまえる気がした。
そう考えては気分良く、いつも歩き向かう道筋をだらだらと歩いていた。
車も入ってはこれない道がここには多い。
一方通行の迷路に規則正しい外堀のような家々の内に入れば、そこはまさしく迷路と呼べるにふさわしいと思っている。
今でも、知らない道に誤って、もしくは好奇心に揺り動かされて進んでは、まだ見ぬ世界を拝む事が出来るのだ。
小説の主人公になったつもりで、知らぬ異世界を歩き回るという妄想に心を何度も満たされたものである。
四季によって家々を覆う草花もその姿を変える光景は、同じ顔を見せる事がないからこそに美しい。
だからこそ、道を歩くのは楽しいのである。
決して、夜道だけが好きという訳でもないのだ。
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