預言者の憂鬱

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 むすっとしながら、エンデは2階に差し掛かる階段を昇り始めた。  さっきのミカエルの言葉が脳裏をよぎる。 「2階に差し掛かったところで 母親が死ぬよ」  嫌な気分だ。  赤ん坊の泣き声はしだいに大きくなってくる。  こんな所で産まれた子供というのは。いったいどんな人生を送るのだろうか。  そういえばミカエルは「一人で産む」と言っていたな。父親はどうなったんだ。 「父親はいないよ。彼女は娼婦だったんだ。誰の子種だか本人だって分らんのだよ。勿論僕は知っているけどね」 「だから読むなって言ってんだろが! このクソ天使が」 「君の口の悪いのには呆れ果てるけど、天使に向かってクソとはなんだね、クソとは」 「クソで十分だ、お前なんか! 人間を“今死ぬよ”なんて平然と言ってのけるような奴は、俺は誰だってクソだと言ってやる」 「なるほど、新しい一面を発見したよ。君はなかなか人間愛に満ちているんだね。でもそれはただ気分の問題なのじゃないかい。僕は確かに平然と言ったよ、でもそれは僕がそれを今起こることとしてではなく、すでに起こったこととして言っていたからに過ぎないんだよ。君達人間には分らなくてもね、天使には若干の予知能力もあるからさ」 「ふん! 大したもんだ」
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