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ミカエルはというと、育児には手を貸さず、気が付けばエンデの部屋にいて、気が付けばいなかった。
エンデの部屋は一気ににぎやかになった。
テミスはもちろんの事、エヴァも毎日訪れてきた。
テミスの首が据わってくる頃には、エンデの部屋がエヴァの新しい住居となっていた。
エヴァは体が売れなくなった。
乳くさい赤ん坊の匂いが体に染み付いて、客待ちをしている間もテミスの事が思い出されてしまった。
客を取った日にはテミスの手を握れなかった。
くだらない感情だと考えたが、どうにもならない感情である事も事実だった。
エヴァは馬鹿ではない。
生きていく能力においては賢いとさえ言えるだろう。
その賢い頭で考えた事は「難しいことは考えない」という単純で困難な事だった。
だから自分の中に生まれたどうにもならない感情を、冷静に受け止め、明確な解決策が見つかるまで、在るがままに任せようと結論付けた。
つまりそれは「エンデんちでテミスを抱っこする」事の受容であった。
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