死せる義人ロト

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「実は昔、死に損ねた男がいるんだ」  行儀よく寝ているテミスをだっこしたエンデと街を歩きながら、ミカエルは唐突に話し始めた。 「かつてはモーゼが死の天使サマエルを退け、一時死の運命を逃れたように、ロトも死すべき運命を逃れた者だったのだよ」  ミカエルは少し話しづらそうに続けた。 「しかしそれは、義人『エノク』のように神に許された不死ではなく、神の目から逃れたが故の不死だったのさ。ようするにロトは“ずっと行方不明だった”ってことだね」  オムツと哺乳瓶の入った鞄のタグをいじりながら、エンデは不審そうに聞いた。 「ロトってあのロトだろ。ソドムとゴモラの話に出てくる正直者の」 「その通り」 「それって何年前の話だ?」 「約5千年ってところかな」 「5千歳の迷子ってわけか」 「最近見つかったんだよ、これは普通ありえないことだ。神の目をくらませ、ウリエルの目にも届かず、メタトロンの記録からも突如として消えたのが、だいたい5千年前のことさ」
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