死せる義人ロト

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   ミカエルは珍しく焦っているようだった。  エンデは知らないが、死者の魂を導く使命を持った大天使ミカエルは、その時必死で突然消えた二人の魂を探知していた。  しかし二つの哀れな魂は、ミカエルの努力にも関わらず、その後決して見つかる事はなかった。  それは恐るべき真理の書『天使ラジエルの書』の力であった。  義人ロトはこの書を読み、狂気に陥り、5千年の迷い人となった。    そうなのだ。神の真理に耐えられぬ者にとって、『ラジエル書』は危険な文書なのだ。  義人と呼ばれたロトでさえ耐えられぬものを、ただの普通人が耐えられるわけがない。  もしもその真理に触れたならば、魂は押しつぶされ、擦り切れて、存在をやめてしまうだろう。  それは死ではなく、消滅である。  そして今、魂の案内人ミカエルは、己の奪われた仕事と、言い訳すら許されなかった魂に思いを馳せ、神に己の不手際を懺悔した。  その時大天使は、神の応え、その慈愛に満ちた言葉を噛み締めていた。  そして、小さなテミスは、全ての悩みを遥か置き去りにして、預言者の胸で静かに寝息を立てていた。
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