序幕

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弟子達の洗濯物を取り込んでいると、気配を感じた 誰かが見ている 私は気配のする方へと向かう 侍風の男が道場を伺っているのが見えた 誰かに用があるのだろうか 私は声をかける 「うちに何か用ですか」 その男は私が居たのが解っていたのか驚いた様子は見られない 「ああ、此処に山口一という者がいると思うが」 「人に物を尋ねる時はご自分から名乗るって習いませんでしたか」 叔父から彼を訪ねる者が居ても通すなと言われている特に役人は… 「ああ、すまん、俺は江戸の試衛館で山口殿と一緒だった土方という」 試衛館…… 山口 一とは斎藤さんの事だ。 訳あって名前を変えたと聞いた。 口数の少ない彼が話しているのを聞いた事がある 試衛館の話をしている時は嬉しそうにしていた 「大変ご無礼しました。すぐに呼んで参りますのでお待ちください」 私は一礼をし、斎藤さんを呼びに行った。 私の話に斎藤さんは少し慌てた様子で道場を出て行き私は何となくその後を追った 斎藤さんと土方さんは何やら話をしている様子だ 「あのお話し中申し訳ありません」 二人が一斉に私を見る 「立ち話も何ですので客間を使って下さい」 斎藤さんは少し悩んでいる様子だったが、土方さんが 「忝ない、そうさせて頂く」 斎藤さんも土方さんの言葉に頷き私に一礼をして屋敷の方へと歩いて行った これが、私と彼の最初の出会いだった。 この時の私は、この出会いが運命を変えるなんて想像もしていなかった
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