上原くんと田端くん

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『先生』と、一度子どもに呼ばれてみたかった。 それだけの理由だった。 意外と面白いからだらだら居着いてしまっているだけだ。 「上原さん。」 「なに?」 「グラス、空ですよ。」 すっと、俺のグラスを取り店員にウーロンハイを注文していた。 いつの間に俺の飲んでるものをチェックしたのか‥ 少しだけ触れた手。 濡れたグラスと指の隙間に田端悠人の体温が入ってきた気がした。 まただ。 ドキンと心臓が脈打つのがわかる。 一体俺はどうしたんだ? 「なぁ、」 「はい?」 「次、行かね?」 この気持ちの正体を知りたい。 実を言うと、こうなるのは初めてではないのだ。 飲んでるから、という言い訳が自分で出来ないのは、素面の時にもこの感覚を味わったことがあるからだ。 いつだったか、残業をしていた夜の事だ。 ちらほらと数えるぐらいしか人が残っていない日で、そこに田端の姿もあった。 気付くともう十二時を回りそうだ。 椅子の上で伸びをして大あくびをした時だった。 「どうぞ。」 自動販売機のホットコーヒーが机に置かれた。 .
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