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この家から学校までなら走って五分で行けるが、女の子が汗を垂らしながら教室に入るのはあまり望ましくない。
こんなギリギリの時間まで家にいたのだから、きっとあいつも寝坊したのだろう。
(仕事遅れちゃうよ…か)
青年、百瀬匠は先刻の妹の言葉を思い出しながら、ベッドから起き上がった。
「いつまでこんな生活続けるんだろ…」
妹の由里がいなくなった今、この家には匠以外の人間はいない。
匠が高校二年の冬までは父親がいたが、仕事中の事故で他界。母親は由里を生んだ直後他界した。
事実上この家の生計を立てているのは、今年二十歳になる匠だ。
『仕事』をして、だ。
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