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「ふぁ……」
洗濯ものを畳み終わって、お風呂から上がれば、もうこんな時間だ。
欠伸を噛み締めつつ覚束無い足取りで部屋に向かえば、後ろから腕を捕まれた。
「うわっ!?」
「しっ……俺だ」
声を上げた俺を諌めるように後ろから声を潜めたのは、少し酒臭さが残る深海さんだった。
体を深海さんへ向き変える。
「どうしたんですか、深海さん」
「ん……あぁ、まぁ、なんだ。言っとくことがあってな」
「?」
深海さんは言いづらそうに頭を掻いた。
「坊主が来てから、その、何だ……、ここが居心地易くなった」
「え……」
「ちょっと古い話するけどよ、前の管理人がいた時、あいつらあんな風に一緒にいなかったんだぜ。話もあんましねぇし、管理人も放任してた。だから何か心地悪くてよ、ここが嫌いだった」
「……そう、なんですか」
今はみんなで一緒にご飯食べたりテレビ見たり、ケンカとかしてる。
仲良いな、ってよく思ってた。
深海さんは、俺の頭に手を置いた。
「坊主が来てから、坊主は俺らに普通に接してくれただろ。何つーか、優しさに飢えてたんだろうな……知ってたか? 俺もあいつらも、すぐここに帰って来てんだぜ」
「え、え?」
「お前がいると、居心地が良い。ありがとな」
そう言って表情を和らげる深海さんは、いつもより男らしくてカッコ良かった。
お礼を言われるって思ってなかったから、照れる、普通に。
「そ、そんな、俺は別に……み、皆さんが、その、頼ってくれるしっ」
「だからよ、お前の誕生日を祝ってやりたかったんだよ。遅れちまったけど、ほら」
そう言って深海さんが俺の手に布を渡してきた。
え?
「いつも同じの着てるしよ」
「わ、エプロン……!」
淡い黄色のシンプルな、ウサギのワンポイントがついたエプロン。
慌てて深海さんを見上げた。
「こ、これ……!!」
「何が欲しいかわかんねぇし、予備あったら良いだろ?」
「あ、ありがとうございますっ。だ、大事にします!」
「大袈裟」
エプロンって、自分じゃなかなか買わないから、こうして貰えるのは普通に嬉しい。
抱き締めてお礼を言うと、ポンポンと頭を撫でられた。
「じゃ、おやすみ……"若葉"」
「はいっ、おやすみなさ……え?」
手を振って2階に上がってく深海さんは、今、もしかして俺のこと坊主じゃなくて名前で呼ばなかっただろうか?
不意に名前呼びとか、て、照れるんですけども!?
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