祝われたい5月

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そう言えば、兄ちゃんに昨日迎えに来て貰ったから、自転車は学校にあるんだ。 う、徒歩かな。 早く出た方が良いのかな。 いつもより早めに仕度して靴を履いてると、リビングから深海さんと榎本さんが出てきた。 ちなみに祐一郎さんは二度寝に入ってしまったらしい。春は眠いから…… 「あれー、若葉ちゃんもう行くのー?」 「自転車学校に忘れてきちゃって……」 「送ってやろうか?」 「え?」 思いもしなかった深海さんの申し出にびっくりしてしまった。 何か深海さんが優しいんですけども!? 前も一度入学式の時に送って貰ったけど、何か悪いし…… 「通りだから気にすんな」 「で、でも……」 「深海さんってー、若葉ちゃんにだけは優しいよねー。差別ー?」 「ぁあ? 当たり前だろ。世話になってる奴と迷惑のかかる奴ら、どう見たって若葉には優しくすんだろーよ」 「えぇ!? 深海さんが、若葉ちゃんの名前呼んでるーっ。昨日呼んでなかったのにー、何があったのー? てか、オレ、別に深海さんに迷惑かけてなーい」 「存在自体が迷惑だ」 「うは、冷てぇー。傷付いた心を癒して若葉ちゃーん」 「それが迷惑だって言ってんだよ」 泣き真似をしながら俺に抱き着こうとした榎本さんの後頭部を、深海さんは何の躊躇いもなく拳骨を浴びせる。 何か段々榎本さんってマゾなんじゃないか、って思えてきた。 わざと怒られるようなことして殴られてるような……ごめんなさい。 「てか、何があったのか答えて貰ってないなー」 「うぜぇな」 「まさか、若葉ちゃんに手を出し「オメェじゃねぇんだから」、えー、納得できないー」 ぶつくさ言う榎本さんを文字の通り一蹴した深海さんは、俺の方を見る。 「若、」 ガチャ。 「若葉。約束通りお兄様が送って行ってやる。有り難いと思って、余生をお兄様に感謝することだけに費やせ」 深海さんが俺の名前を呼ぶ、のを遮って玄関のドアを開けながらそんなことを早朝から言っちゃう、兄ちゃんが現れた。 物凄いタイミングの登場。 いきなり過ぎる兄ちゃんの登場に、呆然としてしまった俺の腕を兄ちゃんは掴んで立たせる。 「1秒も無駄に出来ない、多忙なるお兄様が愚弟のために来てやったことで感動して声も出ないのか? 呆けてる暇があるなら、早く動け」 「え、ちょっ」 兄ちゃんに腕を引かれたまま、俺は挨拶も出来ず車に押し込まれ日暮れ荘を後にすることとなった。 深海さん、何かすみません!
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