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* * *
暗く冷たい夜。
震えていると解る温かな掌が、ゆっくりとその頬を触れた。
目の前に立つ彼の顔は哀しげだ。
どうしてそんなに泣き出しそうな顔をしているの?
季節にしては肌寒い冷気が頬を包む。
震えそうに冷えた外気を吸い込むばかりで、彼を見上げた華音は幾ばくの言葉も出せなかった。
どんな時でも自信に満ち溢れ、何事にも冷静沈着で誰にでも深い優しさを見せる彼が、何故だか酷く疲れ果て、動揺しているように見えた。
「葉月?」
先の言葉は出なかったが、彼の名だけはどうにか口に出せた。
何がそんなに辛いの?
何がそんなに悲しいの?
彼は苦悶に顔を歪める。
「……華音。」
「………何?」
いつも彼を元気づけ、後押ししてくれた笑顔も、じわりと広がる不安に押し潰されそうだった。
彼はその指を頬から離し、ある一つの決心をしたように、重苦しく溜め息を吐いた。
「世界は……。世界は、変わらなきゃならない。解りあわなきゃならない。」
唐突に紡ぎ出された言葉。
「えっ………?」
何を言っているの?
華音は小さく小首を傾げる。
指が良く通る彼女の髪をすきながら、その動作一つ一つに苦しい程の愛おしさを感じる自身に半ば嫌悪感を抱いて、彼はいたたまれなくなった。
何処までも、自分には華音しかいないのだ。
一人ごち、黙り込む彼は、
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