File:2 欺瞞

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  〈アッチェント・グラーヴェ〉は、機首真下の主砲と、その更に真下に配置された副砲を展開した。 両舷に搭載している、機体と同サイズ程度の大型クローは先端部も展開し、内部に格納されていた全ての砲塔が姿を現した。 照準は既に、〈国家議会議事堂〉に絞られている。 まさしく“絨毯爆撃”の蹂躙を受けた〈ブラジリア〉に、彼らの逃げ場はなかった。 過ぎた事。 終わった事。 それでも、シュナイツには黙ってみているような真似は出来なかった。 夢であれ、現実であれ。 目の前で、数え切れない命がその攻撃の前に無惨に散っていくのは容認出来よう筈がない。 まさしく“人外の諸行”だと思った。 だが、無情にも引き金は引かれた。 膨大な量の反粒子が、ヨートゥン粒子の保護膜を受けて大気中に放出される様は、間近で超新星爆発を見ているようだった。 押し寄せる暴力的な奔流は、“光の壁”だ。 天が地上に降り注ぐ世紀末に、トリエスタ・ユルンゲル最高議長は受話器を置き、目を瞑って己が無心であるように努めた。 最期の瞬間は、見ない。 対消滅を起こした生物が何を感じるかも考えない。 恐らく、何も感じないんだろうなぁ。 無心であろうとした最高議長が、それさえも忘れて思った事は、己に覆い被さり、包囲し、押し潰さんばかりに首を絞める逃れられない“絶望”と“哀惜”だった。 そうして、光は地に達した。 裏切りと信頼と、200年間内包され続けた“秘密”を瞬く間に呑み込んで。 光は地に達した。  
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