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あらゆる“景色”―――こと己の心に刻み込まれているらしい“景色”にもつかない雑然とした“景色”が、走馬灯のように頭蓋と目蓋の裏を犇めいては消えていく。
斜陽が差し込む大統領執務室。
長大な柱に迫る幾多の黒点。
爆光に彩られた水晶の海。
太平洋上に浮かぶ人工物。
そして、同胞に討たれた親友の最期。
その後には必ず、同胞を討つ己の醜態が脳裏の全てを埋め尽くして果てるのだ。
目を覚ましたシュナイツ・アレインは、知らず知らず溜め息を吐いていた。
あとどれくらい、この悪夢に悩まされれば良いのだろうか―――……。
胸中に問うたシュナイツに、“闇”は呟いた。
“それが、お前の罪だ。”
“闇”は残酷であり、狡猾だった。
一度手に入れたものは、何があっても手放さない。
そして、そのほとんどは人類の愚行―――戦争や紛争行為の戦後の後遺症として人々の前に現れる。
妻は、共に暮らしたいと言う。
しかし、シュナイツ・アレインはとても共には暮らせないと思った。
怖かったのだ。
いつか、“闇”に唆されて妻や最愛の息子達を手にかけてしまうのではないかと―――……。
以来、シュナイツ・アレインとその家族は別居状態にあった。
といっても、休日には家族揃って団欒する姿が見受けられる。
妻や子ども達は、あともう少しの辛抱なんだと根気強くたしなめた。
毎週のカウンセリングを委託している主治医も、現状ならば数ヶ月、早ければ1ヶ月程で家庭復帰が望めると言ってくれた。
しかし、この状況を客観的に観る限り―――。
確実に無理だと思った。
そうこうしているうちに、再び睡魔がもたげ始めて、次の瞬間にはシュナイツは微睡みの中に在った。
ああ。
まただ。
また、あの時だ―――………。
“闇”が手招きをして、己の身体が吸い寄せられていく。
深海のように奥深い“闇”は、今1つの“景色”を映し出していた―――。
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