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吐き気が続いていたから病院に行ったら、ご懐妊ですと言われた。言われてしまった。まさかまさかと思い、信じていたのに、私の身体には命が宿っていた。
帰路、冬空の町並みは流れていくようだった。殺風景に写る。高速で過ぎ去って、残像だけが残るように。
私の目は何物にも焦点を合わせる努力をしないから、視界はモザイクがかかったかのよう。ぼんやりとした中で、太い歩道をふらつきながら歩いていく。
仲睦まじい親子とすれ違った。
視界が鮮明になった。
「……ッ」
吐き気がする。
吐いてしまいたい。この身に宿ってしまった非力な生命を、私は流してしまいたい。膝をついて、道端に崩れて、ついでに子供も尽きればいいのに。
けれど、非道なる主は私に慈悲を与えてはくれないのだ。
親子は視界から消えていた。町並みが霞んでいく。それと同時に吐き気も静まってしまうのだった。
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