Novel

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「妙に間延びした感じがたまらないのよね。エミルの方がエミリに似て可愛いとは思ったけど、あの横棒が愛おしく思えて」  エーミールの本名はエミリではない。それは十日前に使った偽名だ。 「間延びすると、おっとりした感じがしない?」 「そんなモンですかね」  そうよお、と頷くエーミールの語尾も僅かに伸びていた。 「星名ちゃんだって、もっと丁寧な言葉遣いがいいわ。女の子が乱暴な言い方するのはよくないわよ」 「……オレは、これが楽なんで」 「またオレって言ったでしょう」  頬を膨らませるおばさんがいるなんて思いもしなかった。さすがメルヘンの国の住人。 「女の子は上品に、しとやかに。歴史上の姫がそうだったようにね」  ……ああ、だからこの人は嫌いなんだ。女の子、女の子って。まるで母さんみたいに凝り固まった先入観で物を見て。そんなの、嫌だ。
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