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聞かなくてもわかってる。本当はわかってる。歴史小説家、ペンネームはエリザベト・パッカード。どうみても日本人なのにあからさまな偽名を使い、自らを物語の住人のように見立てるのは、そこが彼女の世界だからだ。
彼女の本名なんて、雑誌のインタビューや出版社の公式ホームページを見れば載っている。隠し立てすることもない。
ペンネームはあくまで自分と言うキャラクター。自分の世界の住人になるためのパスポート。そう、インタビューであんた自身が言っていたじゃないか。
それでもあえて聞いたのは、わずかながら期待してしまったからだ。名乗ってくれるって。
でも、結局、彼女は世界を飛び出さなかった。
「そっ、か。……ごめん」
「おかしな星名ちゃん」
ナゼアヤマルノ?
聞かないでくれ。これからオレのすることを咎めないでくれ。あんたが本名を言わなかったように、オレもその問いには答えない。
答えは、見て理解してくれ。
「……じゃあ、元気で」
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