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ガチャリ、と扉が開いた。 「ん?」 男は奥の今から顔を覗かせた。 入ってきたのは女性。しかし、同じ人物なれど、その女性は男の知るその人とは違っていた。 髪は乱れ、うつむき、よく見てみると体が幽かに揺れている。 男は女に寄り、声をかけた 「おい、どうしたんだい?いつもとは全然違うじゃないか」 女は男に倒れ掛かるように寄りかかった。 「っ・・・・・・」 男は突然、短く唸った。 「・・・あぁ、そういうことか。」 男は納得したように微笑み、優しく女を抱きしめた。 「僕は今、君に愛されているんだ」 「・・・・・・・・・」 女は何も言わない。 男の腹部には包丁かなにかの、刃物が深く突き刺されていた。 女は包丁をさらに、ねじこむように男へ押し込んだ。 「ぐっ、うぅ・・・はは、はははは」 痛みに顔を歪ませた男は、その表情を笑顔へと変えていく。 女が包丁を一度引き抜き、男の傷口からは血が溢れ出した。 「僕はね、今とても嬉しいんだよ。僕は今やっとキミに愛された!!」 女はそんな男を見て、何も言わない。 「今キミは僕だけを見てくれている!キミは僕のものだ!キミの愛も、何も、かにも!キミの全ては僕のものだ!!さぁ、キミの愛をもっと僕に刻み込んでくれ!!」 女は包丁を構え、男の胸部を突き刺した。 「がっ・・・・・・あ、あぁ・・・この痛み、まさしく愛だ!」 男は、痛みは感じているものの、痛みよりももっと激しい感情に昂っており、感覚が麻痺しているようだった。 「キミに、今までにないくらい、愛を感じているよ。僕は・・・世界で一番幸せ者だ」 とうとう女は男を押し倒し、馬乗りになった。 「・・・ぅ、さぁ・・・おいで、もっと愛してくれ・・・」 女は何度も、何度も、何度も、男を刺した。 男は狂ったように笑い、歓喜していた。 やがてその笑い声も小さくなり、途絶え、男は息絶えた。 女は、男が死んでいることに気付くと、男に倒れこみ乱れた呼吸を整えた。 やがて女は立ち上がり、振り向きドアノブに手をかけ、扉を開いた。 女は出て行き、扉はガチャリと閉じた。
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