春の夏乃ちゃん

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   わたしの席には男の子がひとり、ぽつんと座っていた。  誰だろう――見たことないや。  まぁ、知らない男子が座ろうが特に気にすることもないだろう。  さて。わたしは古典の教科書が欲しいわけだけど、いちいち席からどいてもらうのも気まずい。机の中にはそれしか入っていないし、とってもらおう。  “すみません、そこわたしの机なんですけど、中に入ってる古典の教科書とってもらえますか”  うん。そう言えばいいかな。  なんて考えながら、ポテポテと歩く。  わたしには、ある程度社交性があると思う。大抵の人なら打ち解けられたし、初対面のひとに話しかけるのにも抵抗はない。  ――でも。  今回ばかりはそうはいかなかった。  遠くからはわからなかったけれど……  その男の子が、透けていたので。  
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