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「先生、良いお年を」
「佐々木くんも、良いお年を」
十二月下旬、翌日から冬休みに入る学校では、こんな挨拶であふれていた。明日以降、登下校時の寒さから解放されるわけだが、こんなに素敵なことがあるだろうか。嬉しくて仕方ない。僕は、足早に駐輪場へ行き、校門を出た。
雪がちらつく坂道を、自転車で下る。寒い。ハンドルを持つ手は、かじかんでいた。
僕は、わりと寒がりなほうだと思う。
首もとには赤いマフラー、黒のイヤーマフに、制服である紺のブレザーの下にはグレーのカーディガンを着用している。
でも、雪は好きだ。
ひとつひとつ形の異なる結晶が天から降ってくるなんて、結構ロマンチックだと思う。
坂道だから、漕ぐ必要もない。存分に雪を楽しむことができる。
僕は上を見ながら、重力に任せて道を滑った。
そう。上を見ながら。
坂はそう長くない。下りきると、坂道を遮るかのようなかたちで、横に伸びている道路がある。交通量は、多い。
速度を増す自転車。上を向いている僕。イヤーマフがあてがわれた耳。
坂道を下りきったことにも、車がきていることにも、気がつくはずがなくて。
――――どん。
鈍い音がした。
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