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「とにかく……あれを始末しなきゃまずい事になるかもしれない」
牛がゆっくりと足を進めてきた。次に、馬がそれよりも前に出て、斧を振り上げる。
「そうだな。死体が増える分には問題ない」
足が小刻みに震えていた。その場で立ち尽くし、ゆっくりと迫り来る人の姿をした牛と馬に恐怖を覚える。
「あ、あのこれは映画の撮影か何かですか……? も、もしそうならお邪魔してすみませんでした。あ、あのこれで失礼するので……」
しかし、次の瞬間、俺は目を見開く。自分の眼前にまで、斧を振りかざした馬が迫ってきていたからだ。
小さな風が吹き、髪が揺れる。馬の頭頂部からはたてがみが生えている事が分かるほど、視界ははっきりと安定していた。
二本の腕で持つ斧が、一瞬にして消えるような錯覚を起こす。
それは、斧が振られたという事だと認識して、体が勝手に動いていた。
「う、うわっ!」
後ろに仰け反り、地面に尻餅をつくかのように崩れ落ちる。
しかし、右腕の肘から少し上あたりが斧の軌道に入っていた。
次の瞬間、振られた斧がその部分を通過すると、俺の右腕が宙に舞った。
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