29443人が本棚に入れています
本棚に追加
「ははは。このもがく姿を見下ろすのはいつ見ても絶景」
「おい。早く済ませろ。仕事に戻るぞ」
そんな会話が耳に届いてくる。何とかしなきゃ。何とかしなきゃ。
殺される。殺される。
俺は左手を伸ばして、地面の土を力一杯に握りしめた。
右腕から血液が流れ出ている感覚に力が抜けていく。
しかし、俺は暴れるようにしてその土を掴んで馬に向かって全力で投げ放った。
「くっ」
馬の巨大な目玉に土が入り、一瞬の隙が生まれる。
俺はそのまま必死に立ち上り、馬に背を見せる形で走り始めた。
「ハアハアハア」
腕が無くなった事により、バランスが上手く取れない。痛みはもう訳が分からない。
「誰か助けて。誰か助けてくれ」
「逃がすな!」
しかし、一歩踏み出す事に力が抜けていく。
逃げようなんて事は到底できないと理解した瞬間だった。
悪い夢なら覚めてほしい。しかし、痛みが現実である事を伝えてくる。
最初のコメントを投稿しよう!