チーズケーキの章・携帯電話の充電は忘れずに。

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「お疲れさまです」 「お先で~す」 同僚達が次々に職場を出て行くのを横目に、僕は手の中にある携帯電話を眺めていた。 銀色に輝く携帯電話は、今は主流と成りつつあるタッチパネル式ではなく、液晶の下にボタンがあるシンプルなものだった。 「御手洗さん帰らないんですか?」 声を掛けられたので顔を上げると、後輩の安東が僕と同じ携帯を片手に立っていた。 「あ、ああ。もう帰るよ」 「やっぱりこれ、気になりますよね?」 手の中の携帯を見ていった。 今日職場の全職員に支給されたそれは、現在開発中の携帯電話型・対魔族用・科学兵器の試作品である。 まだ市販する段階には至ってなく、まずこの試作品の出来を試験するらしい。 試験というのは魔族との戦闘。 試験官は僕ら職員。 まぁ新製品のサンプルを試すモニターだ。 「そうだね。でもまだこの辺りじゃ魔族が出没したって話は聞かないし、性能を確かめる前に商品化されるんじゃないかな?」 携帯と安東、交互に視線を送る。 「そ、そうですよね。部長はやけに張り切って配ってましたけど。実際そんな場面に出くわしたら闘うよりも先に逃げますよ」 自分の命の方が大事ですからと付け加えて安東は頭を掻いた。 僕は笑って頷いた。
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