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教室にはいり、京は自分の席についた。
ふと隣の席をみると背を丸め、机を一心に見つめる女の子が座っている。
京はその横顔をみてドキッとしてしまった。受験日に言われた彼女の一言が鮮明に思い出される。
受験日に彼女は鉛筆を忘れてしまったらしい。慌てて鞄を引っくり返したり後ろを振り返ったりする彼女に、京は鉛筆を差し出した。
「お互い頑張ろうな」
ごく自然に笑いかけた京に彼女は言った。
「あなたの努力も実るといいね」
京は今まで努力など全くしていない、と周りから思われていた。
親からも先生からも出来て当然な子なのだと。
なぜそのように思われていたのか京には皆目分からないのだが、そう思われているからにはそういう風に振る舞わなくてはならない、と思っていた。
勉強もバスケの練習も一人きりで黙々とこなしてきた。苦だと思ったことはないが、寂しく思うことはあった。
高校受験の日、京は初めて、自分の努力を他人に認めてもらう喜びを知った。
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