2・奇妙な二人の奇妙な始まり

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――結局、朝を迎えてしまった。 人々の活気溢れる話し声、雀の可愛らしい鳴き声、部屋に降り注ぐ眩しい程の太陽の光。 日光ですら、緋羅の身体は滅ぼせなかった。 肌が燃えるように熱くなっただけ。 それでも吸血鬼だから、好んで陽光を浴びたいとは思わない。 (今はそんな悠長な事に構う暇はない) 緋羅は頭を振り、包帯と消毒液を手に、女を寝かせた一室に向かった。 女を発見した路地から、緋羅のマンションは少し距離があったが、人一人運ぶくらいどうという事は無い。 人間より力が増したし、女は吸血鬼である緋羅が驚くくらいに軽かった。 ベッドの傍らに腰を下ろし、女の顔を見つめていると、未だに昨晩の自分の行動が信じられない。 緋羅は手慣れた様子で女の包帯を変えながら、昨晩を回想した。 ――― 血の匂いを辿り、通りを隈無く探している所に、血の主はいた。 狭い路地に怪我だらけで、地べたに力無く座る女性。 深夜としては珍しい光景ではないが、不自然過ぎた。 酔い潰れた風でも、ただの痴話喧嘩にしても、余りに酷い怪我を負っている。 既に死んでいるのか、微動だにしない。 好都合だった。 殺さず血を頂くというのは本気だったが、死んでいるのなら遠慮は要らない。 路地に滑り込み、いざ。と、身を屈めたが、すぐに身体を元の姿勢に正す。 女はまだ生きていた。 苦しそうな息が唇から漏れ聞こえ、ゆっくりと、僅かに顔が持ち上がる。 おたふく風邪より腫れた顔からは、元の輪郭が想像出来ない。 根が生えたように固まる自分に気付いたらしい女は、か細い声で一言だけ発した。 『私を殺して・・・』と。 それだけ言うと女は気を失った。 正体がバレたとか、放っておいても死ぬだろうとか、渇きとか色々考えたが、気付けば身体が動いていた。 良く分からない衝動に突き動かされて・・・。 ――― そういう訳で、緋羅は女を自分のマンションへ運び、朝を迎えたのだった。
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