2・奇妙な二人の奇妙な始まり

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緋羅は傷口を丁寧に消毒し、絆創膏を貼り、酷い箇所には包帯を巻き直していく。 芳しい血の匂いが漂ってくるのに、不思議と喉の渇きは無い。 女は相当消耗しているらしく、寝苦しそうに呼吸してはいるが、命に別状はないようで、腕を持ち上げたり、額が触れ合うまで顔を近付けても、全く起きる気配は無い。 緋羅はベッド脇のサイドテーブルに汚れた包帯と消毒液を置き、改めて女を観察した。 そうする事で自分の行動の真意が分かるとでもいうように、まじまじと凝視する。 が、ふと気付く。 (・・・この女、良く見ると、美人だな) 吸血鬼とは言え、男に変わりない。 緋羅は不謹慎と知りつつ、邪な思いを抱いた。 無理も無い。游梨は背が高く、細身ながらスタイルが良く、怪我のせいで膨れてはいるが、整った顔立ちをしているのだから。 緋羅は思わず身を乗り出し、頬杖をついて女を眺めた。 雪みたいな白い肌に、黒く、長い髪がよく映えている。 長い睫毛は頬に影を落とし、筋の通った鼻筋、赤くふっくらした唇からは荒い息が漏れ出し、額には汗がうっすら陽の光を受けて煌めいている。 ふとシャツから見える胸元に視線を移すと、生々しい痣が目についた。 明らかに転んだような痣ではない。 緋羅は女の顔に視線を戻す。 (まさか、頬も誰かに殴られたのか?) 服の下にはもっと痣があるのだろうか。 華奢な身体で良く生きていたものだ。 発見しなければ、死んでいてもおかしくないくらいに痛々しい姿に、緋羅は胸が締め付けられた。 皮肉めいた笑みが溢れる。 (不可抗力だが、今まで何十人も殺してきた俺が人間を助けるなんて、な) 「・・・そうか。そういう事か」 緋羅は閃いた。 答えのない疑問を抱くのはむず痒く、若干強引に答えを導き出す。 (俺がこの女を助けたのは、罪滅ぼしに違いない) そう結論づけた緋羅は、サイドテーブルの引き出しからタオルハンカチを取り出し、女の汗を拭いてやろうと額に手を伸ばす。 軽く触れさせただけだったが、女がカッと目を開いたので緋羅は「ヒッ」と声を上げ、手を引っ込めた。
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