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――いつになったら終わるのだろう。この身が、この焼けつく渇望は、果てるのだろう。
真夜中。寝静まった町をまるで幽霊さながらに、するすると滑るように歩きながら、緋羅は頭上に浮かぶ月を仰いだ。
雲一つない闇空に、淡く柔らかい銀白色の光を放つ満月。
幻想的ですらある風景だが、感傷に浸ってる場合じゃない。
頭を振り、ややつり目気味の瞳を動かし、辺りに意識を戻す。
『渇き』を満たす為に、『獲物』を見つけなくては。
闇に紛れる漆黒の艶髪を、微風が揺らす。
長身で体格の良い外見なのに、一挙一動は無駄がなく、しなやかで、猫のようだ。
緋羅は急に足を止める。
風に乗って聴こえてくる『音』に耳を澄ませた。
(近い。この感じは・・・ふん。女だな)
緋羅は歩調を速め、再び歩き出した。
常人では聞き取れない数キロ先の『音』の主の元へ。
喉の『渇き』はもう限界だった。
知らず歩幅は更に大きくなり、駆け足になる。
(今すぐ『血』を飲まなければ気が狂ってしまう)
渇いた焦燥感を抱き、角を曲がる。
前方を行く『獲物』を視界に捉え、人間の動きではありえない跳躍で女の前に降り立つ。
助走も、地を蹴る音も無かった為、女はビクッと震え、突如現れた男に驚き、目を見開いた。
女の様子に満足したように、不敵な笑みを浮かべた緋羅の口元からは、長い牙が覗き、月光を受けて煌めいた。
そう。緋羅は人間ではない。
人の生き血を糧に、闇に存在する『吸血鬼』であった。
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