1・満月の夜の邂逅

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女は暗闇でもはっきり分かる程に身体を震わせ、じりじりと後退する。 目を見開き、恐怖からか声を無くしてしまったようだ。 緋羅はやはり何の勢いも、素振りも見せず、軽く地面を蹴り、女の前に降り立つ。 それは瞬間の動きで、女は掠れた悲鳴を上げ、その場に尻餅をついた。 緋羅が屈んで目線を合わせると、上下の歯が触れ合い、カチカチと鳴る音が煩い程に耳に届いた。 相変わらず声は出ないようで、口の動きだけで「助けて」と紡ぐも、女は僅かな身動ぎ一つ出来ず、瞬きすらも忘れた目尻にはうっすら涙が浮かぶ。 (・・・お決まりの反応だな。つまらない。とっとと済ませよう) 緋羅は笑みを消し去り、女に詰め寄った。 無意味に首をブンブン振る女の身体に、逃げられないように腕を回す。 女は像のように固まっていて、そんな必要は無かったが、飲みやすいからしている所作だった。 緩慢な動きで首筋に牙を突き立てると、女の身体はびくっと震えた。 緋羅は目を閉じ、2日ぶりの血を一滴も漏らさず、舐めとり、渇きを満たしてゆく。 女の不規則な息遣いと、緋羅が血を啜る音だけが通りを支配した。 女は緋羅から逃れようと僅かな抵抗を試みるも、間もなく身体は力を失い、色を失い、四肢はだらりと垂れ下がる。 緋羅はハッとして顔を上げるも、時既に遅し。 女は事切れ、ぴくりともしない。 緋羅は女の瞼を閉じてやり、そっと横たわらせ、項垂れた。 (ああ、またやってしまった。こんなつもりじゃなかったのに・・・)
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