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女の顔からどんどん生気が流れていき、暗くても分かるくらい蒼白くなってゆく。
緋羅は膝立ちになり、女を見下ろした。
濃赤色の瞳には後悔が滲み、吸血鬼になってからずっと抱き続けている思いが溢れ、零れた。
(また人を殺してしまった。どんなに気をつけていても、いざ血を含んでしまうと、何も考えられなくなってしまう)
「・・・クソッ!忌々しい身体だ!」
緋羅は吐き捨て、拳を地面に叩きつけた。
擦り傷を負うも、たちどころに塞がっていく。
何度叩き付けても結果は同じ。
嘲笑にも似た笑い声が、一切の物音が消えた闇夜に谺した。
応える物は何もない。
――緋羅は吸血鬼で有りながら、人を殺すのには嫌悪に似た思いを抱いていた。
吸血鬼に血を吸われたら死ぬか、仲間になるかのどちらか・・・というのは迷信だ。
ただ貧血になるだけで、もし血を吸われるだけで吸血鬼になっていたら、世界は今頃吸血鬼だらけになっているだろう。
大抵の吸血鬼は永遠の命と強靭になった肉体に満足し、新しい生を謳歌しているが、緋羅は違った。
単調な毎日に飽き飽きし、叶わないと知りすぎているが、自らの身の消滅を願っている。
銀の刃物で心臓を刺してもみたが、なぜか死ねなかった。銀は吸血鬼には毒である筈にも関わらず。
緋羅は文字通り、ただ死んだように生きていた――
風に乗り鼻孔を刺激する新たな血の匂いに、緋羅は反応を止められなかった。
顔を上げ、ゆらりと立ち上がる。
自分の身を呪いながらも、血への渇望は抑えられない。
しかし、渇きはマシになった。
(今度こそ、殺さずに血を頂こう)
緋羅は強く決意し、ゆったりと歩き出す。
月だけが緋羅を見守っていた。
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