1・満月の夜の邂逅

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小学5年の春に父親が病で死に、翌年には母親が過労で亡くなった。身体が丈夫ではなく、父親の代わりに働き、家事もこなし、無理をしていたのだろう。 葬儀後、一人っ子だった私は父親の兄夫婦に引き取られたが、彼らには既に子が二人いたし、多感な年頃の娘は厄介者でしかなかった。 馴染もうと努力をしたが、追い出されるのに時間はそう掛からなかった。 それから親戚の家々をたらい回しにされ、結局施設に落ち着いた。 もうすぐ中学に上がる、10年以上前の、冬のこと。 自分で言うのもなんだが、性格は明るかったから『両親がいない』という事で苛められたり、仲間外れにされたことはない。 だが、街中で他愛ない話をしながら、笑い合う家族連れを目にすると、心はズキンと痛んだ。 寂しかった。 孤独だった。 耐えられなかった。 施設を出る歳になり、仕事もして、一人暮らしを始めて。 たまに同僚に誘われ、合コン紛いな飲み会に行ったり、買い物したり、はしゃいだり。 傍目には満ち足りた生活に映るだろうけど、心が満たされていない本人にとっては、つまらない日々でしかない。 そんな私に転機が訪れたのは、春の人事異動だった。 職場はお酒類を扱い、海外の変わったお酒も卸し、販売するアットホームな雰囲気の、働きやすい会社。 その年は三名の社員が異動してきた。 その中に彼は居た。 人の良さそうな笑み、仕事もでき、優しい彼に、私は一目惚れし、彼も同様だったようだ。 仲が深くなるのはあっという間で、私は寂しさを埋めるようにろくに考えもせず、彼のマンションに引っ越した。 それが、甘かった。 優しかった彼は豹変した。 束縛が激しく、事あるごとに手を挙げるようになったのだ。
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