62人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
一緒に暮らし初めた当初は愛情の裏返し、軽い嫉妬心からだと思っていた。
パシッと叩かれるだけだったし、それだけ好きだという事だろうと、嬉しかったから。
しかし、徐々に殴る力は増し、蹴りも出始めた。
服で隠れる二の腕や、お腹などに痣が浮かび上がる。
それでも私は愚かにも、エスカレートする暴力よりも、彼に嫌われる方が、孤独の方が怖かった。
とは言え、暴力に恐怖を抱かない程、愚かではない。
その都度抵抗を試みるも、更に拳が飛んできて、女の微力では為す術がなかった。
終いには同僚の男性と話すのにも露骨に嫌悪の視線を向けられ、少しでも笑みに近い表情をしようものなら、夕飯より先に帰宅早々、暴力が始まる。
誰にも相談出来ず、相談したとしても彼の人望は強固だった。
病院に行くのも怖かった。バレたらもっと殴られるのは火を見るより明らか。
優しかった彼の面影は塵ほどもない。
同僚と遊ぶのも禁じられ、許されたのは職場と家の往復だけ。
孤独から逃れた筈なのに、心は虚しさを募らせるばかり。
常に彼の態度、視線、挙動を窺い、息の詰まるような緊張感だけの同居生活。
逃げたいけど、逃げられない。
彼はそれこそどこまでも追いかけてくるだろう。
心身共にボロボロだった時、彼が急に会社に呼び出され、私は気晴らしに外出した。
そして本当に偶然同級生に再開して、カフェでほんの数分話をした。
もしかしたら尾けられていたか、用事を早く済ませたか分からない。
帰ると彼が居て、悟るより早く頬を叩かれた。
それまではどこかでセーブされていた暴力は、止めどなく私を襲った。
何度も何度も蹴り、殴られ、吐き出される罵詈雑言・・・。
游梨の意識はそこで途切れた。
最初のコメントを投稿しよう!