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あたしは本牧のヒロの部屋に行くと、すでに荷物はほとんどなくガランとしていた。驚いて部屋を見渡していると、ヒロがキッチンから顔を出して、
「瑠生!?いつ帰ってきたんだ?!」
と目を丸くして言った。あたしはヒロに駆け寄り、その腕を掴むと、
「何処行くの?」
と尋ねると、ヒロは穏やかな笑顔であたしの肩を軽く叩いた。
「店はしばらく休業にした。ロンドンに行く」
「肩を治すの?……ミキさんと?」
とあたしが尋ねると、ヒロは頭を横に振った。
「違うよ。ミキの紹介じゃない。アレク先生の紹介なんだ。向こうでアレク先生と会う約束をしてる。肩を見てもらったら、たいしたことないって言ってくれたんだよ」
「じゃ、治ったらプロとしてやってくの?」
「いや。フリーで、今みたいに小さなクラブやバーで弾いて、そのうち全国回りたいんだ」
ヒロがそう言うと、あたしは思わずヒロの腕にしがみついた。
「……行かないでよっ!ヒロ!」
とあたしが言い出すと、ヒロは驚いてあたしを見つめた。
「ここにいてよ。ヒロに会えなくなるなんて、やだ!」
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