episode それは、楽園で始まる…

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ヒロはあたしの手を解き、ゆっくりと振り向いてあたしを見つめると、 「最後に欲しいものがあるんだ。今日、間に合って良かった」 と微笑んで言うと、あたしは首を傾げた。そしてヒロはあたしの腕を引き寄せると、優しく唇を重ねてきた。あたしは驚いて目を丸くすると、唇が離れた瞬間、ヒロはあたしの耳元で、 「バイバイ、瑠生」 と囁き、急ぎ足で部屋を飛び出していった。 「ヒロぉ…!」 あたしは、一人でタクシーに乗って茫然と窓の外の景色を眺めていた。すると、AMラジオのニュースが始まり、 「1月6日のニュースをお知らせします」 と男性の声がカーステレオから聞こえると、あたしはあることを思い出して身を乗り出し、バッグから携帯電話を取り出してスケジュールを開いてみた。 今日の欄には《ヒロ・誕生日》と書いてあって、あたしは目を丸くしながら、途端に声を上げて泣き出してしまった。 《今日間に合って良かった》 あの言葉は、この意味だったんだ…。 一ヶ月前は、ヒロの誕生日、何をしようか考えてワクワクしてたのに…。今のあたしには、何も出来ない。 誕生日だったんだね。おめでとうすら言えず、サヨナラしか言えないなんて。
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