578人が本棚に入れています
本棚に追加
ヒロはあたしの手を解き、ゆっくりと振り向いてあたしを見つめると、
「最後に欲しいものがあるんだ。今日、間に合って良かった」
と微笑んで言うと、あたしは首を傾げた。そしてヒロはあたしの腕を引き寄せると、優しく唇を重ねてきた。あたしは驚いて目を丸くすると、唇が離れた瞬間、ヒロはあたしの耳元で、
「バイバイ、瑠生」
と囁き、急ぎ足で部屋を飛び出していった。
「ヒロぉ…!」
あたしは、一人でタクシーに乗って茫然と窓の外の景色を眺めていた。すると、AMラジオのニュースが始まり、
「1月6日のニュースをお知らせします」
と男性の声がカーステレオから聞こえると、あたしはあることを思い出して身を乗り出し、バッグから携帯電話を取り出してスケジュールを開いてみた。
今日の欄には《ヒロ・誕生日》と書いてあって、あたしは目を丸くしながら、途端に声を上げて泣き出してしまった。
《今日間に合って良かった》
あの言葉は、この意味だったんだ…。
一ヶ月前は、ヒロの誕生日、何をしようか考えてワクワクしてたのに…。今のあたしには、何も出来ない。
誕生日だったんだね。おめでとうすら言えず、サヨナラしか言えないなんて。
最初のコメントを投稿しよう!