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「盗聴器?」
関内にあるライツ探偵事務所で、所長の匠は振り向いてあたしを見た。あたしは掌にグチャグチャに潰れた盗聴器を乗せて、匠に見せて頷いた。
「うん。このへんでこんな型、売ってるとこないよ」
と口を尖らせてあたしが言うと、匠はあたしの手の中の、粉々になったガラクタを見て溜め息をついた。
「お前なぁ。ここまで破壊したら、出どころも何も調べられないだろう?」
「あっ…!」
匠に頭を小突かれて、あたしは苦笑いして誤魔化した。匠は小さな溜め息をつくと、
「……他に何か気になることがあれば、すぐに言えよ」
と、ぶっきらぼうに言うと、あたしも口を尖らせて、
「うん」
と頷き、ガラクタを小さな透明ビニールに入れて、デスクの引き出しにしまうと、椅子に座りパソコンを立ち上げた。
瑠生、現在22歳。
匠は瑠生の17歳ほど年上で、39歳になるそうだが、実は自分の年齢が正しいのか記憶は定かではないらしい。匠はいつもちょび髭を生やしている。ここ最近は顎にもうっすらと髭を生やしてきた。
匠は懐からタバコのキャメルを取り出して、口にくわえて火をつけた。そして自分のデスク(所長席)に戻り、調査書をあさっている。でも、なかなか見当たらない。匠は眉をひそめて、デスクの上に重ねている書類を整理していくが、探している書類は見つからない。頭をかきながら、ふと2メートルほど離れたデスクにいるあたしを見て、
「瑠生。こないだ受けた本田さんの調査書、知らないか?」
と尋ねると、あたしは顔を上げて匠を見ると首を傾げた。
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