578人が本棚に入れています
本棚に追加
「昨日、ボスが仕上げたじゃん?ファイルに綴じるのまで見てたよ。……ないの?」
「ああ。今日これから会うっていう話しなんだけど、そのために昨日整理したのに」
と匠は言いながら、灰皿を流し台に取りに行くと、ゴミ箱にいくつか書類が捨てられているのがわかり、匠は驚いて書類を手に取った。
匠は眉をひそめながら、出掛ける支度を始めた。眉根を寄せてシワができるのは、匠の癖だ。
「帰り、遅くなりそうだね。今夜サンセット、来る?」
とあたしが匠に尋ねると、匠はジャケットを羽織り、寒さが苦手なので手袋をはめてあたしを見た。
「おそらく行けないかな。ヒロによろしく。ああ、遥もヒロを気に入ったみたいだ。また四人でメシ行こうって言ってたよ」
匠はドアを開けてそう言うと、あたしは匠を見た。だが、匠はもうそこにいなかった。階段を降りていく足音が聞こえて、あたしは少しだけ溜め息を零した。
遥さんは、獣医で匠の恋人(?)。
先週末、匠と遥さんと、あたしの彼氏ヒロとで食事をしたんだ。
そして、《サンセット》は、山下公園近くにあるジャズバーで、あたしはそこでサックスを吹いている。
*
夕方、あたしは事務所のデスクで白いファーのついた白いコートを羽織り、口紅を引いていた。
そこにFAXが着信し、すぐに受信モードに切り替わり、やがて「ピーッ」と鳴って受信が終了すると、あたしは立ち上がってその用紙を取り出して、ハッとして息を飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!