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匠が言うと、あたしは驚きながら匠の腕を掴んで匠の瞳を見上げた。匠はそんなあたしを穏やかな表情で見つめている。
「ボスは、後悔してるの?」
首を傾げながらあたしが言うと、匠は目を丸くしてあたしを見つめた。
「後悔なんてしてないさ。ただ…瑠生を混乱させるだけなのかと」
「混乱?そりゃ混乱してるよ。でも後悔なんてしてない。むしろあたしは…」
あたしはそう言いかけて、言葉を探した。エレベーターのドアが開いて、匠はあたしの手からすり抜けて歩き出すと、あたしは動けなくなった。その続きの言葉、何て言うつもりなのか、自分でも分からない。するとエレベーターのドアが閉まりかけて、あたしはハッと顔を上げると、ドアの隙間に大きな手が見えてドアが再び開いた。匠がそこにいて、あたしの頭を小突いた。
「何してる…?…行くぞ、瑠生」
「…匠」
あたしは、もう夕べのことを考えるのはやめようと思った。
いつかは、きっとその答えが出る時がくる。
でも、それは、今考えてもきっと分からない。
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