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今はただ、匠を信じて、ついていこう。だって、匠はあたしの全てだから。
匠がいるから、あたしがここにいる。
そうして、あたしたちは横須賀にやって来た。少し小雨が降っている。遥さんの働く動物病院にやってきたので、あたしは驚いていた。遥さんと事件と、何が関係あるのだろう。中に入ると、受付の女性はいつものように窓口から匠を見て、
「あ、匠さん、こんにちわ。3階の応接室でお待ちください、とのことですよ」
と言うと、匠は頷き奥にある階段で3階にあがった。3階の応接室に入ると、そこにはすでに遥さんが窓際に立っていた。
髪は後ろでアップしていて、薄いピンクのブラウスにタイトスカート。パンプスを履いている。薄化粧だが、細い瞳が綺麗に切れ長だ。遥さんは、私と匠を見て、
「そろそろ、来ると思ってたわ」
と言うと、匠は苦笑して頷いた。
「今、彼女も来るわ」
遥さんの言葉に、あたしは首を傾げた。
「彼女?誰のこと?」
あたしが呟くと、遙さんは何も言わずにあたしを見て頭を横に振った。そしてあたしの隣にいる匠を見ると、
「でも、匠。生きてね。あの日あなたは死にそこなって、私が助けたのよ。だから忘れないで。生きて!」
といつも冷静な遥さんが涙ぐんでそう言うと、匠は頷いて微笑んでいた。
「遥。分かってる」
あたしは遥さんと匠の関係が何となく分かったような気がして、何も言わずに二人を見つめていた。
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