4 約束

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「…覚えてる。初めて拉致された日。あたしの誕生日だったもの。匠とダディが助けに来てくれた」 あたしがそう言うと、香織さんは苦笑した。 「そう。組織は、鈴音とスティーブの存在をと判断したのよ。スティーブは瑠生を助けた時、偶然にも組織のデータを見つけたの。組織が関連した密輸ルート、銃の売買取引先などの帳簿まで。スティーブはそれを持ち出してしまったの。アメリカ、いえ、ヨーロッパ一の大きなその組織を潰せるその帳簿を彼が持ち出してしまったことで、スティーブは更に命を狙われるでしょう。鈴音はそれを恐れて、スティーブが持ち出したものを処分することを勧めたの。でもスティーブは断った。あの組織を完全に潰さなくてはならない。あの頃は逮捕を何より願ったスティーブは、組織の全貌を知って、逮捕では根が消えないことを悟った。組織を壊滅しなくてはならない。そう思って、スティーブは、組織と闘う決心をしたの。スティーブの決意を知って、鈴音も協力した。だけど、結局逃げ切れなかった…。二人は…あいつらに殺されたのよ」 香織さんの言葉の端々が、微かに震えている。涙を堪えているのが、あたしには分かった。そして、あたしの隣に座る匠も、タバコをくわえたまま、微動だにしなかった。 「匠さんは全てを承知して、一人で組織に乗り込んだの。警察にも公安にも反対されたのに。一人であの組織を壊滅させたのには、驚かされたわ」
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