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「ひどい女だと思ってるよね。でも、私は博之の夢を叶えたかったの。…でも今の博之には、あなたとの未来の方が大切なんだわ。それなら、潔く身を引くわ……」
美貴さんは苦笑してそう言うと、あたしは驚いて美貴さんを見つめた。
「ううん。ヒロにはあたしより、美貴さんの方が似合ってる。ヒロの夢を叶えてあげてほしい。ヒロのチェロは、素敵だよ。小さな店でおさまる人じゃない。肩が治る手術、できるなら受けてほしい。だからきっと、あたしが邪魔してるのよ。美貴さん。あたし、ヒロのこと、大好きでした。あたしをちゃんと愛してくれた。嬉しかったんだ。だからもういいの。あたしはもう、ヒロのそばにいられない。あたしが、さよなら言わなきゃいけないの。ヒロを、よろしくお願いします」
涙を必死に堪えてあたしがそう言うと、美貴さんと強く握手を交わした。
いつの間にか、サンセットの前だった。
美貴さんは、タクシーを捕まえて乗り込み、中から私を見上げて涙ぐんで、小さく会釈をした。あたしも、コクリと頷くと、やがてタクシーは走り去り、あたしはタクシーを見送った。
これでいいんだ。
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