藤色瞳の一条さん

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リズムの良い軽やかな曲。 指が鍵盤の上で踊っている。 真冬にしても今日は割り合い暖かかったから、窓を開けた。 そのため、ピアノの音は外まで空気と共に散歩に出かけた。 「すごくいい」 演奏が終わると、パチパチと手を叩いてようやく笑顔になった一条さん。 こんなもので喜んでもらえるなら、いくらでも弾いていいけど。 音楽室へ来たのも久しぶり。 でも、そんな笑顔を見たのも久しぶりだ。 「笑った方がいいよ」 自分で言ってすぐに俺は顔を背けた。 …何、突然恥ずかしいことを言ってるんだろう。 「泣いてるより、いいってこと」 すぐに訂正をして彼女を見返した。 すると、俺も同じようなことを言われた。 「冷泉君も笑っている方がいいよ」 そして、相変わらず赤くなりやすい一条さんは桃色の頬をしてニッコリと笑った。 だから、自分も笑わなくちゃ…と思いニッと笑おうとするものの… 「…顔が引きつるんだけど」 その言葉に彼女は珍しく声を上げて笑った。 「面白いね」 「うわ、この人失礼」 「ごめんごめん。でも、顔が引きつるって…」 花のように笑った。
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