1482人が本棚に入れています
本棚に追加
/333ページ
「まぁ」
無言の一条さんに向かって言った。
「俺はそんなことしないけど」
「…」
「好きでも付き合ってないのなら」
とても、そっけない言い方だったと思う。
まるで一条さんと長岡の付き合い方を否定するような、そんな言い方。
「聞いててそう思った。俺には関係無いから口出しする権利なんてないけどね」
「…分かってるよ。亜美ちゃんからも同じことを言われたの」
「へぇ、そうなんだ」
確かに、内田はそういうことを言いそうだ。
イメージが瞬時に浮かぶ。
いつも一条さんのことを一番冷静な目で見つめているのは、彼女かもしれない。
「だから、冷泉君の言ってることは正しいよ」
見つめた彼女の瞳は仄かに薄い紫のかかった色をしていた。
その瞳も今自分を見つめている。
「今日は、ありがとう。冷泉君」
「いや、俺が勝手に引っ張ってきたようなもんだし」
「ううん。それじゃあ私、そろそろ保健室戻ろうかな…」
…え?
今日は一日ここへいて、校門まで一緒に帰ると思っていたのは自分だけ?
そう言うと、一条さんは腰を上げた。
彼女は紛れもなく帰ろうとしていた。
俺を置いて。
最初のコメントを投稿しよう!