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次の日から、普段通りの日常が始まった。
放課後は一人で音楽室へ通ったし、たまに駐輪場で一条さんと長岡に会うこともあった。
でも、一条さんは長岡との付き合い方をちゃんと見つめている。
内田からも指摘を受けたと言っていた。
だから、マフラーを自分で巻いていた。
たまに長岡がおちょくって手を出そうとする光景も見えたけど、笑ってその手をかわしていた。
だから、俺は何も言わずに自転車を進める。
そんな日が、一日一日少しずつ繰り返される。
たまには楽器店に足を向け、たまには教室に残って意味もなく机に突っ伏せた。
隣には、一条さんの机。
手を伸ばせばすぐに届く。
そんな距離に、毎日彼女は自分の近くにいるのに。
教室では軽く言葉を交わすことはあっても、話すことなどあまりない。
でも、この日常は係が終わるまでだ。
それまで俺は…
「何してるの?」
突然声が聞こえ驚いた。
自分の気が緩んでいたのか、相手が気配を消していたのか。
伸ばしていた手をすぐに戻し、顔を上げる。
「…?」
そこにいたのは同じクラスの女子。
名前は…緒方澪(オガタミオ)?
話したこともない緒方は一人教室にいた俺に声を掛けてきた。
「珍しい。冷泉君じゃんっ」
「…何」
話したこともないのに、あろうことか親しげにその女子は俺に笑いかけてきた。
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