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「大丈夫ですか?」
強面な男と花屋が振向く。
まだ中学生くらいの少年が、立っていた。
白いハンカチを差し出しながら。
ハンカチを見るやいなや、強面な男は「はっ!」と着用している衣服を見下ろす。
よく見ると少量ではあるが、上品な光沢を放つスーツから水がポタポタと滴っていた。
花屋は知ってか知らずか、そそくさと割れた花瓶を軽く片付け始めた。
それを見た強面の男が罵声を飛ばす。
「ははっ、ちまちま片付け始めてんじゃねぇよ!おい、どうしてくれんだ!このスーツはイタリア製で50万もするんだぞ!」
花屋は何も言わない。
目も合わせようとしない。
カシャカシャと手先だけが音を発している。
「おい!聞いてんのか!あぁ!」
「これでは、終わりが見えませんね。花屋さん、どうするつもりですか?」
少年は、そう言って白いハンカチをポケットにしまう。
花屋はそっと立ち上がり、俯いたままボソボソと言う。
「分かりました。スーツ代を弁償すればいいのですね?」
そして強面の男を睨む。
男は上から下、下から上と覗くように花屋を見る。
「あったりめぇだろが!ほらよ?早く金出せよ?おぉ?」
強面の男は言う毎に花屋へ近付く。
一歩。
また一歩。
花屋の目と鼻の先に、その強面っつらが近付く。
目は逸さない。
睨を止めた花屋は不意に顔を上げると、少年を見た。
少年は花屋の視線に気付き、首を傾げる。
この光景を客観的に捉えた少年は、クスっと笑い口火を切る。
「当事者はどちらも行動している最中にトラブルが発生した。ならば、当事者のどちらか一方が責任を担うのは考え難いですね。」
「…っあぁ!?」
強面な男が間を置いて発する。
花屋が一瞬ニヤりとした表情をし、瓶底の破片を拾う。
そしてボヤくように呟いた。
「折角、クヴンハーウンから直送して頂いたのに。ジノリの花瓶が可愛いそうだ。」
瓶底には刻印がある。
『ЖRoyal・q・CopenhagenЖ』
「スーツ代は全額払います。勿論、花瓶も責任を取って頂けるのなら。」
と花屋は言った。
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