流星に永久の願いを

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きらり、輝く幾つもの星たちの間をすり抜けて、一つの流れ星が闇を駆けた。 「あっ!」 彼と私の声が重なり、心地よい沈黙に終止符がうたれた。 流れ星は、直ぐに消えてしまった。 しかし、欲深い私に何度もチャンスをくれるかのように、またすぐに流れ星が闇を裂いた。 「……」 彼が目を瞑る。 すると、彼の長い睫毛が頬に影を落した。 月明かりに照らされたその顔は、いつもより白く見えた。 どれだけ、その儚い横顔を、その小さな体を守りたいと思っただろうか。 ――抱き締めたいと、願っただろうか。 「…イランさん」 キラキラと輝く星たちから目を離すことなく、囁くように発された、どこか憂いを帯びた女のように高い声。 微かな胸の痛みは知らないフリをして、なんだ?と返せば、 「願いごと、した?」 その大きく、無知で純粋な瞳は、愚かな私を映した。 「…余りにも、多すぎてな」 彼は我が国の王の息子…所謂王子だった。 欲張りで愚かな私は、そんな彼の父上の治めるこの国の兵士。 いくら私が多くの兵士たちを束ねる隊長だろうと、彼にとって私はただの家来。身分の違いは目に見えていた。 「…貴方は、何を願ったのだ?」 正直、純粋で単純で恐れを知らない彼の心は、予測不能だった。 だから、彼の願い事など、私にわかる筈がなかったのだ。 ――彼の、どこか決心したような強い瞳に、捕らわれるまでは。 「ぼくは、ね、」 私は弱く愚かだった。 彼を守りたい、そう思いながらも、私に彼を守りきれる自信がなかった。 彼は私を愛していると言ってくれた。 しかし、私などでは、いけないのではないか。 国を守る兵であっても、人を守る方法を、私はよく知らなかった。 ――彼には、確かな幸せを手に入れてほしい。 私のような、男で子も産めぬ、いつ死ぬか分からぬような穢れた者と契りを交わしても、彼にとって一番の幸せが訪れるのだろうか? 彼を幸せにするためならば、私はこの身を退くことも厭わない。…この身が裂けようとも千切れようとも構わなかった。 彼の幸せこそが、私の幸せなのだ。 「貴方と、ずっと一緒に居たい。  ――どうか僕を連れ去って」 私は、彼を抱き締めた。 狂いだした歯車はみて見ぬ振りをした。 彼を腕に抱いた私に、怖いものなど、もうなかった。 END.
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