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「あ、もうこんな時間だよ悠兎。」
食事を済ませて談笑していた時に、十悟は壁に掛かっている大きな丸時計を見るなりハッと気付いたような声をあげた。
食堂は満席状態で、代わりにカウンターの大行列は消えている。
「ん、時間ならまだ30分以上あるだろ。もうちょっとゆっくりしてこうぜ」
「スーパー。買い物に行かなきゃ。」
まだ戻る気のなかった悠兎だったが、その単語を聞いて、午前中に十悟と交わした約束を思い出した。
「あら、買い物に行くの? 確かココヤスだっけ? 変な名前よね」
「愁香も一緒に行く?」
「私は琴音と行くわ。料理はあっちにお願いしたから、勝手に食材買うとまずいのよね。別の機会に4人で行きましょ」
「そっか、分かった。」
十悟は顔を伏せて残念がったように見えた。
3人は立ち上がり、カウンターまで行って空になった器の乗っているトレイを返却してから、その場で別れた。
スーパー『ココヤス』は食品から雑貨品まで幅広く取り扱っている店だった。
画期的だったのは買った品物が自室に転送されるシステムで、半信半疑だった悠兎は支払いを済ませてからわざわざ部屋に戻り確かめてみたが、購入した商品は大まかに分別された状態で冷蔵庫に入っていた。
この技術を何故新入生の荷物の搬入に利用しなかったのか疑問だったが、買い物がずっと楽になるのは確かだ。
そして現在、悠兎と十悟は午後最初の授業――武器戦闘の為に移動しているところだった。
刀剣科の授業は校舎外にある第一訓練場で行われるらしい。
途中で同じ刀剣科と思われる生徒たちとも合流していき、一団は校舎西側の森の中に目的地を見つけた。
訓練場という言葉に悠兎はどんな施設かと期待していたが、到着してみるとそこは森の一部を円状に切り拓いただけの場所だった。
見えるものといえば、背の高い木々と、『教官室』と『用具入れ』の看板がかかっている青い屋根をした2階建てのプレハブ一棟のみ。
6階建ての巨大なドーム型の校舎も、大木に阻まれてここからは見えなかった。
一学年分の600名が収まるには狭いくらいだが、刀剣科に所属する生徒が使用する分には問題ないだろう。
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