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「……以上15クラス、600名の入学を許可します」
司会進行をつとめていた教師は、今日というめでたい日を表すかのようにはきはきとした声で言う。
季節は春。
開け放たれた窓からは、厳しい冬を乗り越えた草花の逞しい香りを含んだ風が遮光カーテンを靡かせながら入ってくる。
ここはトリカ王国東部の森の中にある私立獅子鐘魔法学院の、第一体育館。
現在2000人以上を収容しているこの体育館で張り詰める緊張感の中を、千以上の乾いた拍手の音が突き抜けていく。
本日の主役である新入生は一様に目をキラキラと輝かせて在校生などの出席者から祝福を受けていた。
まだあどけなさの残る彼らの表情は期待に満ち溢れており、これからの時代を担うに相応しい顔つきだ。
左胸部分に校章が刺繍された紺のブレザーとシンボルカラーである淡いオレンジ色のワイシャツが特徴の制服も、まだ着こなせてはいない。
だが新入生の中には、新しい仲間や教師の顔を見ようともせず、頭をしきりに上下させて睡魔と格闘する緊張感のない者もいた。
関津悠兎(かんつ ゆうと)もその一人で、前髪でちょうど良く隠れる両目を閉じてさきほどからずっと俯いていた。
入学式もいよいよ終盤を迎えた今、悠兎はこの式の退屈さを振り返って大きく息を吐き出す。
領主や軍の上層部の挨拶はありきたりで、ひどくつまらないものだった。
毎年似たような事を言っているのだろう、すでに祝辞には新入生に見合うだけの新鮮さは残されていなかった。
その中で唯一学院長の挨拶だけは心の底から祝ってくれているのだと伝わるようなものだったが、式に対する感想を覆すまでには至らなかった。
全てのプログラムを終えた一年生は、壮大な音楽と雷鳴のように轟く拍手で満ちた第一体育館を教師に引率されて退場していった。
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