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「はぁ、疲れた……」
高校生活最初のイベントを終えて自分のクラスである1組に戻った悠兎は、低い呻き声を出してから崩れ落ちるように机に突っ伏した。
クラスの中は友達作りのために騒然としていたが、初日という事もあってか、まだ席を立って遠くの生徒と会話をする者はいなかった。
先ほどまで悠兎を襲っていた睡魔はどこかへと去っていったが、寝起きのせいで身体は酷くだるい。
顔を伏せたまま、前に座る生徒の邪魔にならない程度に身体の筋肉を伸ばしてから、悠兎はより楽な体勢を探す。
「あら、初日から随分と余裕そうね、あんたは」
頭上から声を掛けられたのは、その時だった。
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには悠兎のよく知る人物が2人いた。
悠兎に話しかけた女子生徒――不当愁香(ふとうしゅうか)は、悠兎と目が合うなり鮮やかな赤色のショートヘアを揺らして項垂れる。
「そりゃあ笑えるような話でもないんだから眠くなるだろ」
「でも、昨日夜更かししてたでしょ。それが原因なんじゃない?」
愁香の隣に立つ矢野柄十悟(やのつかじゅうご)が、抑揚のない声で言う。
黒ぶち眼鏡の奥から覗かせる瞳も、声と同様にどこか脱力している。
「いや、確かにちょっと遅かったけどさ、そのせいってわけじゃないぞ」
「慣れない宿に緊張した?」
「なに、たった一日でもう孤児院が寂しくなったの?」
「ちがうから」
馬鹿にするような愁香の言葉に、悠兎は眉間に皺を寄せて否定する。
悠兎、愁香、十悟の3人は、トリカ国東部にある同じ孤児院で育った幼馴染である。
とはいっても物心ついたときから一緒だったわけではなく、元々十悟と一緒に生活していたところに愁香が入ってきたのだ。
悠兎は2人を兄弟のように思っていたし、2人もきっと同じように思っていると確信が持てる。
3人はそういう関係だった。
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