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「それにしたって、初日くらいちゃんとしてほしいものだわ。あんなぐだってる奴と同じ中学出身かって思われるのは嫌よ」
「高校からはもっと真面目に授業を受けないと、留年になるかもしれないよ。」
「それはないだろ。一応特待生だぜ?」
無表情を崩して眉間に皺を寄せる十悟に、悠兎は溜め息をつきながら答えた。
愁香と十悟の2人が通常の試験に合格して入学したのに対し、悠兎は戦闘能力の高い生徒を対象に行われる試験に合格して、ここにいる。
獅子鐘学院の一年生600名のうち、特待生枠は50名分しか設けられていない。
つまり悠兎は、獅子鐘学院に実力を認められた生徒の一人なのだ。
中学生の頃は、学校の誰よりも強かった。
一般中学校の為、全員が軍事系学校への進学を希望する生徒というわけではなかったが、二番目に強かった愁香との差は決して僅かではなかった。
「あら、一般生徒よりも基準が緩いだけで、特待生にも留年はあるのよ?」
「全教科赤点とか、単位8個以上落としたりとかね。」
「さすがにそこまで馬鹿じゃないから大丈夫」
「ふぅん。なら今年からは勉強を教えなくて良いのね」
「それとこれとは話が別だろ」
悠兎の抗議に愁香が言葉を返そうとしたその時、耳をつんざくような音が教室に響き渡った。
全員の顔が一斉に音源である入口の方向へと動く。
訪れる静寂。
けたたましい音を響かせて引き戸を開けたのは、随分と小柄な女性だった。
「……あ、ごめんなさい。ちょっと力が入り過ぎちゃいました」
教室内の雰囲気を感じ取ったのか、若草色のカーディガンを羽織ったその女性は、苦笑いを浮かべながら生徒たちに対して謝った。
「とりあえず、席に着いて下さい」
今の音に驚いて立ったまま固まっていた十悟と愁香に向かって、その女性は柔らかな笑みを浮かべて着席を促した。
2人が着席したのを確認すると、女性は教卓の前に立ち、一度乾いた咳払いをしてから話し始めた。
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