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「そんなんが会で噂になっとるんか」
「麗子さんの彼氏ですし」
「そんなアホな!入って数日やど」
「もう噂の的ですよ」
菅野はなおも体をヒロに寄せる。
「お前、どこの所属や」
「まだフロントなんです」
「そうか、それなら俺の傘下に入っても問題ないな?」
「いえ、それが、大宮組のフロントなんです」
「それなら無理やな、会内でもめ事は御法度や、誰かの女か?」
「いいえ、彼氏は大宮組の頭でしたが去年、チャイニーズに撃たれて死にました」
「そうか、毎日仏壇を拝むんやな」
「もう、ヒロさん!」
菅野がヒロの太股をつねる。
「痛てー」
ヒロが顔をしかめる。
「……今度ゆっくり温泉でも行こか?」
菅野が兵士の顔から女の顔に変わり目を輝かせて頷いた。
「そろそろ行こか」
「はい」
菅野がエンジンを掛けた。
組員がシャッターを開けた。
ベンツが大宮通りにゆっくりと左に曲がる。その後を少し間を空けてコンテナが追従する。
「さっきの死体はどうするんや」
「掃除屋が来ます。帰えるときれいになってますよ」
「掃除やか?どうやって死体を処理するんや」
「たしか、粉砕して、強酸で溶かして下水に流すと言ってました」
「仲間の死体は……」
「手厚く火葬にします。会の病院で死亡したと言うことで、会の葬儀屋で葬式をして、たしか遺族に3000万円支払うと聞いてます」
「それやったら、死んでも家族は喜ぶな……」
「みんな厳しい生活ですか、死んだ方がいいかもですね……」
菅野が左にハンドルを切った。
「どこ行くんや?」
「大回りして堀川通りから、八条方面に行きます」
「そうか」
路地を抜け堀川通りを右に曲がった。しばらく走って、右に世界最大の木造建築で有名な世界遺産の西本願寺が見えてきた。
ヒロは本堂に向かって手を合わせて、一礼した。
菅野はヒロの異常な動作にえっと言う顔をした。
「俺は、ここの門徒や、今死んだ二人を供養した」
「……」
ベンツは七条通りを左に曲がった。
「道、詳しいな」
「毎日、走り回ってますから」
「そうか自動車泥棒やったな。このベンツはなんぼで、さばけんるんや」
「これなら500ってとこです」
「安いなあ、4分の一になるんやな」
「盗品は手間がかかりますから」
菅野は店で会った時と違い鋭いナイフから、ミツバチを待っている綺麗な花ように、ヒロを受け入れようとしている。
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