頓死

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ばしゃばしゃばしゃという、水面を不躾に侵す音。 それに促され、飛び立つ鳥たち。 荒事が起こっているのは、考えずとも分かった。 「弔うには喧騒が過ぎる」 ポツリと言えば、沢で何が起こっているのかが分からないままで構うものかと、道正はそこを後にしようとした。 騒がしい中で弔いなどしたくなかったためだが、どうにも運が悪いらしい。 ばったり出会すは、身形からして追い剥ぎかなにかの類いだろうか。 一瞬の静止。 互いに思わず出会したために起こったことだが、道正はあちらよりも早く立ち直っていた。 黒鞘から走る黒の一閃。 そして生まれる赤の噴水。 先程まで相手していた狗よりも遥かに重い手応えが伝わるも、道正は狂わない。 「人相手では、あの高揚感は出ないのか……不思議です」 斬殺しておきながら、そんなのは構わず考察に走るも、やり方が不味かったのか、こちらに足音が近付いてくるのを道正は察した。 しまった、とは思わない。 逃げれば済むだけで、尚且つ追い付いたものを斬り伏せる程度の実力は自負しているのだ。 故に道正は動じず、限界まで情報を得ようとするが、聞こえてきたのは下衆(げす)の怒声。 「一体なんだってんだ、折角上玉を捕まえて今からお楽しみと洒落込む所だったのによ」 「構やしねぇさ、粋がった武士程度ならすぐに片付く。そうすれば……」 後に続く笑い声など道正は聞いていない。 空気が澱(よど)んでいく。 あの方がおわす庵のある山の一部が穢されていくと感じるのは、道正の独断。 穢していくは彼の者等。 上玉?お楽しみ? 「解しました」 そう言うのと、子犬の亡骸を懐に仕舞うのは同時なれど、駆け出すのがそれより速かったか、同時だったかなど、道正にもわからない。 ただ、止まった時に分かったのは、物言わぬ肉塊が二つ増えていたこと。
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