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スーパーから歩き出して15分程経った。このペースで歩けばあと5分ぐらいで家に着く。
「ごめんなさいね、何回も嘘ついて。つい面白くて」
「い、いえ、別に……」
静谷さんと会ったのって入学式の日と今日だけだよな? この短時間で何回嘘つかれてるんだろ、俺。まぁ騙すと言うよりからかうって感じだから別に良いんだけど。
「私、素直な人って好きよ」
「えっ……え、え~っと、ありがとうございます?」
首を傾げながら頭を下げるのはかなり不自然に見えたかもしれない。
本当に何を言い出すんだこの人は……いや、素直な人が好きって考えてみれば当たり前かもしれないけどさ、それでもさっきの発言の後に言われると変に意識してしまう。
「大丈夫よ、これは嘘じゃないから。私ね、素直で純粋で正直な人が好き。だからね……」
静谷さんがそこまで言うと足を止めて俺を見た。さっきと変わらない微笑みを浮かべると、再び口を開く。
「私に嘘をつくなら、ずっと私を騙し続けてね」
身体中に冷たい感覚が走って、俺は足を止めた。静谷さんはいつもと変わらない微笑みを見せて再び歩き出している。
今のは、嘘をつかないでという言葉の裏返しだろうか。本当にそれだけの意味で、深い意味なんて無いんだろうか。
「どうしたの?」
「あ、いえ、何でもないです」
俺の方を向いて訊く静谷さんにそう返すと、静谷さんはまたにこりと微笑んで歩き出した。
俺は遅れないように小走りで静谷さんを追う。昼間に感じた感覚が、再び頭の中に渦巻いていた。
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